足尾
初めて出版した写真集「足尾線の詩」を片手に、久しぶりに足尾の町へ。
小雨がぱらつく肌寒い日、遠い記憶をたどりながら町の中を歩いた。
川端に残る精錬所、大きな煙突、後ろにそびえたつ山々。
しーんとした静けさが遠い記憶のあの日を蘇らせた。
精錬所の轟音や蒸気機関車の活気に満ちた豪快な響き。
元気に遊ぶ子供たちの声、忙しそうに通り過ぎて行く下駄の音。
それをたよりに、私は夢中で歩き、思い出の場所を探し求めた。
あの日撮影した母と子の居た思い出の場所、足を棒にしてやっと探し出した瞬間、ひとすじの涙がこぼれた。
思い出の石垣は、あの日と同じままで、私を迎えてくれた。
あの庭もあの道もみんな昔の面影を残しながら、静かにずっと私を待っていてくれた。