「運動会の思い出」

まだまだ貧しく、苦しい時代だった昭和三〇年代初め、「運動会」は家族の誰もが 楽しみにしていた行事でした。

日頃は、なり振りかまわず働いていた母親たちも、久し振りの外出に心躍らせて、 髪をセットし、よそ行きの和服やスーツを着て、おしゃれをして出掛けました。

父親 たちの中にも、蝶ネクタイやピカピカの革靴を履いたハイカラな人もいて、子供心に ビックリしたり、わくわくしたものでした。

普段は梅干弁当で我慢させていた家でも、家計をやりくりし、卵焼きやお魚など入っ た特別のお弁当を作りました。

貧しい粗食の食卓で、誰もがじっと辛抱していた時代 ですから、子供たちの胸は大きな期待と楽しみでいっぱいでした。

そんな年に一度の晴れ舞台で、日頃の練習の成果を披露する子供たちも、力いっぱ い頑張りました  緊張と高揚した空気が秋空の下に広がり、その凛々しい姿には盛大な拍手が送られ ました。

校庭には笑顔があふれ、大歓声が響き渡りました。

写真が大好きだった私は、秋の日差しの中、真っ黒になりながらも、あちらこちら の学校へ出向き、校庭中を駆け回り、無我夢中で運動会の様子をフィルムに収めたも のでした。

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その中で今でも忘れられない思い出があります。

それは昭和三十二年の桐生女子高 秋季運動会でのことでした。

写真部の部長をしていた私は、記録係として、在学最後の運動会を撮影していまし た。

裸足でブルマ姿の同級生、タバコの火付け競争など、ユニークな場面に出逢うたび 大興奮しながら、撮影しておりました。

その内に軽快なリズムが鳴り出し、ダンスが始まりました。

すると、突然、小さな女の子が私の横を通り過ぎ、校庭の真ん中へ駆け出したのです。

「えっ何!」と驚くのもつかの間、お姉さんたちと一緒になって踊り始めたのです。

でも よっぽど急いだのでしょうか?履いている下駄がチグハグです!。

夢中になって踊る可愛い女の子のそのあどけないしぐさに、思わず感動してパチリ!とシャッターを切りました。

ダンスが終わり、お姉さんたちから「上手だったね~」と誉められて にこっと気恥ずかしそうに笑った、あの女の子の笑顔が、今も鮮明に思い出されます。