デパート

父との東京行きの楽しみは、その帰りには必ずデパートへ立ち寄ることでした。

デパートで取り扱う商品は、品質がよく安心して買える一流品とのイメージがあり、地方には取り扱えない最新流行の品々や舶来品などが豊富に揃い、広々とした店内と、洗練された美しいデパートガールは憧れの的でした。

「田舎では見られない、いろんなものがあるだろう~、ここから流行が発信されているんだよ。

贅沢を教えに来てるんではないんだよ。

これからの時代に色んな事がどうなっていくのか、勉強に連れて来てるんだからね、」と云いながら、父はいそいそと喜ぶ私を連れて、デパート巡りをしてくれました。

そして三越へ行ったときは、決まって、大きく綺麗な特別食堂でお昼ご飯を食べさせてくれたのです。

お子様ランチ、ハンバークステーキ、ビーフステーキ、えびフライなど、地方の食堂では見かけない珍しいものがいっぱいありました。

周りには盛装した素敵な人々が、楽しそうに食事をしていました。

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キラキラ光る銀製のフォークやナイフを使って食べることの珍しさに、初めて出会った時でした。

私がどうして良いのかマゴマゴしてると、父が「こうして食べるんだよ」と右手にナイフ、左手にフォークを持って、スマートに食べて見せてくれたのです。

そんな父を見て、すごいな~と感心していると、「お前もいつの日か母親になって、子供たちを連れてくる日が来るのだろうな~」と、云いながら意味深な顔をして私を見つめていました。

日本橋の白木屋デパート(現在の東急)にエスカレーターがお目見えし、お客様に乗り方を指導するエスカレーターガールの様子を撮影に行った事もありました。

その足で高島屋へと日本橋界隈のデパートをよくはしごして歩きました。

その後(昭和32年)有楽町に、そごう東京店がオープン!当時の話題になりました。

フランク永井の「有楽町で逢いましょう」のキャンペーンソングの大ヒットと共に、そごうの前や有楽町駅での待ち合わせも大流行となりました。

♪あなたを待てば雨が降る~濡れて来ぬかと気にかかる~♪の歌がラジオやちまたで連日のように流れていました。

そんな状況の作品が無性に撮りたくなり、雨の日に出かけると、歌詞のごとく、駅のガード下やそごうデパートの前には沢山の人が集まり、人待ち顔して立っていました。

「やあ!遅くなってごめん!」傘も差さずに慌てた様子で駆け寄る男性に「大丈夫、今来たところよ!」と嬉しそうな笑顔で迎える女性、映画にでも行くのでしょうか?一人ぽっんとして、時々時計を気にしている女性、柱にもたれて本を読みながら根気良く待ってる女性、何処へ行くのでしょうか?颯爽とタクシーに乗り込む男女の姿、行き交う様々な人間模様を見ている内に、私にもいつの日か「有楽町で逢いましょう!」と待ち合わせする素敵な人が現れないかしら?な~んてことが、チラリと頭に浮かびましたが、すぐに写真を撮るのに夢中になってしまいました。